【読書日記】自分のキャリアを考えるうえで参考になった書籍

 前回でも述べさせて頂いたが、私の転職活動は異業種転職をはじめ試みたがそちらは残念な結果に終わり、広義の意味で同業他社への転職に切り替えたところ、上手くいき、今に至った経緯がある。今働いている会社は好きだし、中長期にわたって貢献していきたいと思っている。

 

 ただ、異業種への転職に憧れがあったのは事実であり、それだけにその道が断たれた、少なくとも自分が希望していた企業からのオファーをもらえなかったのはショックだった。半年近くの準備期間を設け、極めて有能なエージェントにもついて頂き、これ以上は無いと思える布陣で挑んだだけに、落胆は大きかった。

 

 この時に、自分の行き場のない想いを整理するためにも、大量のキャリア本を読んだ。その中で、自分にとって感銘を受けた本をいくつか紹介したい。

 

「好きなようにしてください たった一つの「仕事」の原則」(楠木 建)

「キャリアを手放す勇気 東大卒・マッキンゼー経由・お笑い芸人」(石井 てる美)

「諦める力」(為末 大)

「悩みどころと逃げどころ」(梅原大吾・ちきりん)

 

「好きなようにしてください たった一つの「仕事」の原則」

 

 

 Newspicksで行われた楠木さんと読者で行われた対談。文字通り、相談者からの悩みに対し、「好きなようにしてください」と返す。ただ、この好きなようにしてくださいという台詞の意味は深い。

 

 楠木さんのキャリアに対する考え方は一貫している。まず「仕事は趣味ではない」余人をもって代えがたい、というレベルで貢献出来なければならないというスタンスだ。では、どうしたら余人を以て代えがたいというレベルまでいけるかというと「好きなことをする」ことに尽きる。誰しも、好きなこと嫌いなことがあり、結局努力していることを忘れるくらい好きなことでなければ駄目。とても単純な話。

 

 キャリアの悩みというのは、そこで勝ち負けというおかしな論理を入れてしまうことが原因であることが多い。「私はマグロが好き」「私は鮭が好き」ここに、勝ち負けで論じる人間はいない。所詮好き嫌いなのだから。ところが、これで話題がキャリアになると、途端に「勝ち組」「負け組」という話が出てくる。なんで「組」まで付けて徒党を組みたがるのか謎だが、実際良く出てくる。

 

 正直な所、学生の頃の私がこの本を読んで素直に感銘を受けたかといわれると疑わしい。なぜかって、その「何が好きで」「何が嫌いか」わからないのだから困っているのだと。転職活動と違って、就職活動はそのへんの勘所が無い。半分目を瞑ってえいやで飛ぶ必要がある。そうなると、少しでもリスクの少ない、あからさまに言えば、世の中一般で凄いと言われる会社に入ることを目指す。個人的には、最初の就職はそれくらいの軸でも良いと思うのだけど。

 

 だが、自分が数年間働き、かつ上記転職活動に於いて強く感じたこととして、確かに好きなことでないと結局パフォームしない。たとえ、その好きなものが、世の中で不人気とされている仕事であったとしても、当人はそれしか出来ないんだから仕方ない。だから、例えばベンチャーか大企業かどっちが良いかなんてのは、そもそも問いとして成り立たない。なぜかというと、大企業の働き方はどうにも性に合わないという人は一定数いる。こういう人に対し、「大企業のほうが福利厚生も良いし、大きな仕事が出来る」などという説得は無意味である。「そうかもしんないけど、自分には無理だったから仕方ないでしょう」という返事が返ってくること請け合いである。

 

 ざっくり言うと上記のようなことが、約400ページにわたってびっしりと延々語られている本。結構インパクトがあって、著者の他の本を買いあさり、今ではDMMの著者サロンまで入ってしまった。

 

「キャリアを手放す勇気 東大卒・マッキンゼー経由・お笑い芸人」

 

 

 タイトルで損している、と個人的に感じている本。私がこのタイトルを見たときに感じた印象は、「天才型の人が人生に飽きて、ちょっと面白そうな方向に進んでみようかと思った」みたいな話だと思った。中身を立ち読みしなかったら、買わなかったと思う。

 

 実際は極めて真面目な本で、著者がどういった経緯でマッキンゼーに入り、そこでどういった経験を積み(というか地獄を見て)、お笑い芸人になった結果どうなったか、ということが赤裸々に書かれている。個人的に、文庫本でp.91から始まる「なぜお笑い芸人になるという決断ができたのか」という文章が響いた。著者はこれをベッドの中で声をあげて泣きながら、のたうち回りながら考えたというが、その葛藤がよく伝わってくる。

 

 余談だけど、キャリア、というより自分の限界云々という話は、そもそも高いレベルでないと議論が起きない。ので、後述するオリンピック選手等アスリートではよく発生する悩みだと思うが、サラリーマンレベルではそんな大したレベルで働いている人はいない(そんな卓越した能力があるなら、そもそもサラリーマンにならない)。この人はそのレベルに達した数少ないサラリーマン(ウーマン)だと思う。

 

 また、この人の考えた「仕事を続ける3つの条件」は個人的に大好き。自分だったらどういう軸があるだろうと考えたのは、この人のお陰。

 

  1. 好きかどうか
  2. 人より得意か
  3. その先に目標があるか

 

とても良い条件だと思いませんか?

 

「諦める力」

 

 

 著者である為末さんは400メートルハードルにおいて、世界大会で日本人として初めてのメダルを取った人。この本は、「努力して何かを勝ち取る」ということがどういうことかを教えてくれたと思っている。ぶっちゃけ、努力して何かを達成する、というのは難易度がそう高くない段階でのみ通用する理屈で、一定以上のレベルになると不可能、というか努力は必要十分条件になりえなくなる。でも、それを指摘してくれる優しい人は普通いない。「一生懸命頑張れば、夢はかなうよ」的な薄っぺらな言葉を浴びせられて、終わってしまう。

 

 この人は、たぶん常人の何倍もそうした言葉を投げかけられながら、戦ってきた人。個人的に、特に下記の言葉が好き。

 

  • 何かに秀でるには能力の絞り込みが必須で、どんな可能性もあるという状態は、何にも特化できていない状態でもある
  • 応援してくれる人が責任を取ってくれるわけではない。「では、あなたが僕がやめずに続けたとして、どのくらいまでいくと思いますか」
  • 勝つことを諦めたくなかったから、競技を変えた
  • 全力で試してみた経験が少ない人は、「自分ができる範囲」について体感値がない。(中略)転ぶことや失敗を恐れて全力で挑むことを避けてきた人は、この自分の範囲に対してのセンスを欠きがちで、僕はそれこそが一番のリスクだと思っている

 

「悩みどころと逃げどころ」

 

 

 個人的には、梅原大吾さんが格闘ゲームの世界に戻ってくるくだりがとても好き。梅原さんが世界一になったのは17歳。ところが、当時はプロゲーマーという世界が認められておらず、また自身の成長が感じられなかったということで、麻雀の世界へ。ところがそこでも合わず、介護の世界へ。彼の父は病院で働いており、母も看護師であったことも影響したそう。介護士として働いていたある日、仲間に誘われて発売されたばかりのストリートファイター4をやってみた。ブランク有、練習ゼロだったにも関わらず、周りの人間とは同じ人間がプレーしているとは思えないくらい差があった。「成果を発揮できるものがあるということはなんて素晴らしいだろう」と感じた。以後、「自分にはゲーム以上のものはない。これが自分の器だ」と思って取り組んでいると。

 

 実は、梅原さんの本は同じ小学館新書でも「世界一プロ・ゲーマーの『仕事術』 勝ち続ける意志力」と「勝負論 ウメハラの流儀」がある。ただ、個人的にはこの対談集が、一番梅原さんの考えを引き出してくれたと思う。私は、ちきりんさんの考えた方は合わないところも多いのだが、この対談集に於けるちきりんさんは本当に素晴らしいと思う。相手を心の底から尊敬した上で、納得できないところは納得できないと素朴にぶつける。この方がいなければ、ここまで深い納得感を得られることはなかったのではないか。

 

 キャリア選択は、誰にとっても葛藤との闘いだと思っている。そういう意味で、上記4冊はその葛藤ぶりがよく見える良い本で、今でも悩んだときによく見返している。

 

以上